小泉さんを単なる「策士」呼ばわりする人がいるが、彼は高度の政治判断ができるという点で、稀有の政治家だと思う。

80歳を超えた中曽根さんに引導を渡したり(「けしからん、失敬だ」と中曽根さんが眉間の血管をピリピリさせながら激怒していたが、誰もができなかった「老害排除」を小泉さんはやってしまった)。

拉致問題でもこのタイミングしかないというときに、自ら北朝鮮に乗り込んで金正日総書記と直談判したり(このときの出発時の空港では顔面蒼白、無表情、ほとんど死相に近い表情を見せていたので、小泉さん、死ぬ覚悟だナァ、と思ったものだ)。

日本再生の道を、民ができることは民が、地方ができることは地方が、小さな政府、など誰もが賛成する総論を「郵政民営化」という各論で「国民投票」したり・・・。

「自民党をぶっ壊す」という言葉をそのまま実行してみたり(この言葉を「元気のよさ」と受けとめて総裁を任せた派閥の領袖たちは、今、この言葉が「まさか本気だったとは・・・」と唇を噛んで悔しがっていることだろう。最大派閥のボスだった橋本さんは後任も決めないまま派閥会長を退いて「次の選挙には出ない」と口を滑らせてしまった通り、今回の選挙では立候補すら出来ずに「引退」となった。当人は「まさか・・・」だろう)。

小泉さんは、派閥の親分になろうなんてことはサラサラ考えていないに違いない。「任期延長」の野心も持たない。見識、経験、使命感を持つ後輩を1年がかりで自分のやりたかったことを引き継げるように教育して、自らは身を引くと宣言する。

「あなたしかいない」と持ち上げられ、「それじゃ、もう少しやってみますか」なんて言ってその誘いを受け、結局、期待されたことのひとつもできず、「老害」と言われて晩節を汚す人のなんと多いことか。

民間企業でも同じだ。トップの交代は大変難しい。「この仕事は自分にしかできない」と思う尊大さが会社をダメにする。定年を迎えた人が経済的な理由から「もう少し、お世話になります」というのは一向に構わないけれど、育ってきた若い人に与えるべき活躍の場に相変わらず居座り続けると、組織が淀み、活力が急に失せていく。

小泉さんの偉さは、この最後の点、つまり、しっかりと人を育て、自分の任期が終わったら、未練なく後輩に活躍できる場を譲る、というところではないか。
小泉さん・・・、この最後の「譲る」ことのむずかしさに失敗する大勢の人の1人にならないように、たのんますよ!